先日、ある技術者の方から『技術士とはなんたるか』について問われる機会がありました。
恥ずかしながら、私自身はあまりそういったことを考えてこなかったのですが、その際に少し考えてみた事を綴ってみました。(主に、技術者倫理について)
『技術士とはなんたるか』への私個人の答えは、次のようなものです。
『技術士とは高い技術力・課題解決能力を有し、強い信念と倫理観をもって技術的な職務に従事することで、公共の福祉に資する技術者』
特に記事後半に記述した技術者倫理が、とても、とても、とても、とても、とても、大事だと思っています。
「技術士倫理を知っているのか?」と問いたくなるような提案をする技術士を大勢見てきました。
コスト縮減と工期短縮、この言葉の裏にある怖さをどの位の人が理解しているのか。
後半部分は、将来の自分に対する戒めの意味も込めて書いたものになります。
技術士試験を受験する方には、この機会に改めて倫理観と自分の仕事のつながりを見直すきっかけになればと思います。
よろしければ息抜きがてら読んで頂ければ幸いです。
技術士に求められる資質能力
まずは建前からいきます。読み飛ばし可です(笑)。
技術士会のHPには、まず技術士の「制度」について次のように記載されています。
技術士制度とは、「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)です。
さらに、「技術士」は、「技術士法」により高い技術者倫理を備え、継続的な資質向上に努めることが責務となっています。
また、技術士に求められる能力等については次のように記載がされていました。
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)は「専門的学識」「問題解決」「マネジメント」「評価」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「技術者倫理」各々の項目において最低限備えるべき資質能力が定められています。
さて、、、
技術誌には「最低限備えるべき資質能力」が定められているようです。文部科学省のホームページに記載されていたので以下に引用します。(実は私、細かい説明は初めて読みました。。。)
(長いので、項目以外は斜め読み推奨)
どうでもいい話ですが、コンピテンシーという言葉を見た時に「何それ?」と思いました。
「日常生活で絶対使わんような横文字を使うなよ!!資質能力でいいじゃん、、、」と感じたものです。
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):文部科学省 (mext.go.jp)
専門的学識
技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。
問題解決
業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
マネジメント
業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
評価
業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。
コミュニケーション
業務履行上、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
リーダーシップ
業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
技術者倫理
業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保に努め、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。
・・・ なるほど。パーフェクトなリーダー像です。
と、、、一見すると感じたのですが、よく読むとマネジメント、評価、リーダーシップ、コミュニケーションの説明には、「適切に」という言葉が添えられておらず、特にリーダーシップには「努める」を連発しているあたりにやさしさを感じます。完璧は求められていないようで何よりです。
個人の感想になりますが、専門的学識と高い問題解決能力・倫理観が求められる一方で、マネジメント、評価、リーダーシップ、コミュニケーション、についてはソコソコ程度の能力を求められているのかな、という感想を持ちました。
ざっくりとした一般的なイメージは↓のような感じでしょうか?
『技術士とは高い技術力と課題解決能力を有し、技術的な職務に従事することで、公共の福祉に資する技術者であり、業務にあたってのリーダー的役割を担う技術者』
技術者倫理
前述の文科省の定める技術士に求められる資質能力の末尾に技術者倫理のことが記載されていましたが、私の考えでは、技術士にとって最も重要な資質は技術士倫理だと思っています(専門的学識・問題解よりもはるかに重要)。
倫理観の欠如した有能は危険です。
技術士倫理綱領において、技術士は以下の基本綱領を遵守するように記載されています。
1.~5.は職務業務の進め方に関するもの、6.~10.は行動の在り方にかんするもの、と分類できます。
【技術士倫理_基本綱領】
(公衆の利益の優先)
1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。
(持続可能性の確保)
2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努める。
(有能性の重視)
3.技術士は、自分の力量が及ぶ範囲の業務を行い、確信のない業務には携わらない。
(真実性の確保)
4.技術士は、報告、説明又は発表を、客観的でかつ事実に基づいた情報を用いて行う。
(公正かつ誠実な履行)
5.技術士は、公正な分析と判断に基づき、託された業務を誠実に履行する。
(秘密の保持)
6.技術士は、業務上知り得た秘密を、正当な理由がなく他に漏らしたり、転用したりしない。
(信用の保持)
7.技術士は、品位を保持し、欺瞞的な行為、不当な報酬の授受等、信用を失うような行為をしない。
(相互の協力)
8.技術士は、相互に信頼し、相手の立場を尊重して協力するように努める。
(法規の遵守等)
9.技術士は、業務の対象となる地域の法規を遵守し、文化的価値を尊重する。
(継続研鑚)
10.技術士は、常に専門技術の力量並びに技術と社会が接する領域の知識を高めるとともに、人材育成に努める。
技術者倫理については、技術士二次試験の面接で次のように問われたことがあります。
「あなたがこれまで関与した業務や、近しい業務で技術者倫理に触れるような事例はありましたか?仮にあったとしたら、どの様な対応が適切であったと感じますか?」
『おいおい、、、なんちゅう質問してくるんやこのおっさん。。。』と思ったのを鮮明に覚えています。
10年近く土木の仕事をしていれば、グレーな事案はいくつもあるわけですが、その時は比較的あたりさわりのない案件を選んで回答しました。
※ 質問された試験官はおそらく行政官だったので、実情を知ったうえで聞いてきていました。
しかし、、、この質問にあるように、実務の世界、特に計画段階、工事段階では技術者倫理に関わる判断を迫られることというのは、程度の大小はあれ、よくあることは事実です。事業者で仕事をしていれば、それこそ1年生のころから何かしらあります。
担当技術者まで権限が下りてくるような案件で、倫理観との狭間で精神をすり減らすような判断を強いられる事案というのは多くはないですが、今後、立場が上がるにしたがいそんな事案に、より厳しい判断を迫られる場面がふえてくるのかもしれません。
過去に巨大プロジェクトの主要工事の総括担当だった頃、まさにそのような状況に陥りました。(内外から責められ苦しかった時期がありました。その人たちも苦しんでいましたが。。。)
多くの事業で、官民いずれの立場でも、時として技術者倫理に抵触する判断を強いられる可能性がある事案として、コスト縮減と工期短縮が考えられます。
とくに、工期遵守は事業効果の早期発現という観点からもコスト以上に要請が強い場合も多く、計画段階、設計段階の遅れを全て工事で調整するような発注をされることも少なくありません。
官民両方の上層部がありとあらゆる手段で工期遵守を目指すような状況では、既に極限まで縮めている状況から更なる短縮を目指しているようなケースである場合が多く、このような状況下で出てくるアイデアには品質や安全を犠牲にするものも多分に含まれます。そして、そういたったアイデアは、結果だけを見た時に上層部に非常に魅力的に映るケースも多いのです。
しかし、我々、土木技術者が作るのは、後世への遺産として50年、100年と引き継いでいく社会インフラです。目先の1,2年の効果発現の為に(ましてや、目先の自分の評価の為に)自分が納得しない品質・設計・施工を許容することはあってはならないと考えています。そこは戦う必要がある。
『自分がした判断は50年後、100年後の社会貢献に繋がっているか?』
甘っちょろい考えの様に思われるかも知れませんが、土木の仕事を続ける限り、この問いを持ち続けたいと思います。
まとめ
以上を踏まえた『技術士とはなんたるか』の個人的なイメージを以下に記載します。
『技術士とは高い技術力・課題解決能力を有し、強い信念と倫理観をもって技術的な職務に従事することで、公共の福祉に資する技術者』
このイメージは技術士に限らず、全ての技術者にとって『かくあるべし』という姿のようにも思います。特に公共事業に関わる技術者はそうなのかなと。
今回、学びなおしてみて、私自身は技術士としては未熟な部分も多いですが、技術士の理想像を体現できるよう、倫理観を忘れず日々研鑽を重ねていきたいと思いました。
また、考える機会を与えてくれた某技術者の方に感謝します。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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