『老後に向けた資産形成を行う』という目的であれば、投資期間と投資対象を広く分散した『長期投資』を行うことが、多くの人にとって最適解の一つとなるでしょう。
より具体的にいうならば、全世界または全米に広く分散するインデックスに連動する投資商品に長期積立投資を行うことです。(本記事では、この様な投資法を長期投資と略称します。)
※ 長期分散積立投資を行うことの重要性についてはこちらの記事をご参照ください。
本記事ではこの長期投資のパフォーマンスを高めるための重要事項を5つ挙げて説明していきます。
長期投資におけるパフォーマンス
(1)長期投資のパフォーマンスの算定式
長期積立投資におけるパフォーマンスの算定式は以下のとおりです。
~長期積立投資によるパフォーマンス~
X=∑{Ai×(1+B)^(C-i)}
X:運用期間終了後の資産額(投資元本+利子の総額)
Ai:i年目の積立額
B:投資期間中の平均年利回り
C:運用期間
~一括投資した場合のパフォーマンス~
X=A×(1+B)^C}
X:運用期間終了後の資産額(投資元本+利子の総額)
A:投資元本
B:投資期間中の平均年利回り
C:運用期間
式をみてわかるとおり、平均年利回りが同一であった場合、一括投資したほうが投資効率は高まります。しかし、一括投資した場合、平均年利回りはタイミングによって大きくブレます。例えば、S&P500に1000万円を一括投資し15年間運用した場合のリターンは2000万円~1億3000万円ぐらいの幅でズレます(詳細はこちらの記事を参照)。
ただし、市場は上昇局面が7割以上なので、多くのケースで一括投資の方が有利なのですが、上記の事実を知ったうえで、個々人で判断することになります。
(2)長期投資のパフォーマンスを決める要素
長期投資のパフォーマンスを決めるのは(1)の数式A,B,Cになります。
A:投資元本(積立額)
B:平均利回り
C:運用期間
A,B,Cが大きい程、運用終了後の資産額が大きくなります。
これらを踏まえて、将来の資産額に与える重要事項を整理します。
長期投資のパフォーマンス向上のための重要事項
(1)早く投資をはじめる
早く投資を始めることは、パフォーマンスの計算式におけるC投資期間を大きくすることを意味します。
以下は、元本を1000万円、平均利回りを年利5%で固定した場合の、運用期間と運用利益の関係を示しています。
投資期間の後半になるほど、元本に対する利益が劇的に増えています。これが複利の効果です。
若い人ほど、早く投資を始めることの恩恵を受けることが出来ます。
(2)投資元本を大きくする
パフォーマンスの計算式におけるA(投資元本)or Ai(積立金額)を大きくすることです。
投資元本が大きくすることは目標額に対する投資期間を大きく縮めてくれます。
以下の表は運用期間を30年、平均利回りを年利5%で固定した場合の、投資元本と運用利益の関係です。
利益率は変わりませんが、元本が10倍になれば利益も10倍になります。元本が変わっても投資に掛かる手間は全く一緒です。『インデックス投資は入金力が重要』と言われる理由が分かるかと思います。
特に、運用初期における元本の大きさは非常に重要です。
20代、30代の間にまとまった投資元本を作ることが、将来の資産形成における最重要事項であると私は考えています。
今回、紹介する5つの重要事項のうち、他の4つは知ってさえいれば比較的容易に実現できるのですが、『若いうちにまとまった投資元本を確保する』ことは一朝一夕にはいきません。
それ故に、最も重要かつ、最も難しい項目であると言えるかもしれません。
(3)手数料を小さくする
全世界や全米へのインデックス投資の場合、利回りはターゲットとする指標によって決まるため、ファンドによるパフォーマンスの違いは手数料で決まります。
手数料の影響を具体に見てみましょう。
【全世界株式】
<eMAXIS Slim全世界株式(除く日本)>
基準価額:1万9,923円(2023/7/26)
純資産総額:1,310,588百万円円
信託報酬:年率0.1133%以内
出典:SBI証券
<eMAXIS 全世界株式インデックス>
基準価額:49,901円
純資産総額:30,400百万円
信託報酬:年率0.66%以内
出典:SBI証券
上記の2種類の投資信託はいずれも日本を除く先進国、及び新興国の株価動向を示す「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」と連動する投資成果を目指すファンドですが、信託報酬はeMAXIS Slimの方が0.5%以上小さく設定されています。
例えば、元本1000万円を利回り5.0%で30年運用した時、手数料が0.1133%ならば30年後の資産は約4200万円ですが、手数料が0.66%であった場合、30年後の資産は約3600万円となり、同じ指数による商品を購入しているにも関わらず、約800万円も投資パフォーマンスが低下します。
これから投資を始める人にとっては、『たかが、0.5%』と感じる人もいるかも知れませんが、30年という期間を経るとこれほど大きなさになるのです。
さて、この二つの商品の違いは何なのでしょうか?
手数料の安いeMAXIS SLIMシリーズの商品はネット証券でのみ購入出来ます。証券会社の窓口で投資信託をしようとすると、後者の商品しか買えません。つまり、手続き等のための事務手数料の差が、手数料として載っているのですね。
銀行の窓口業務にかかる手数料が年々、高額になっているように、人件費が余分にかかる証券会社窓口では優良な金融商品は買うことができないのですね。
窓口で商品購入をしようとすると、さらに信託報酬の高い商品を売りつけられるリスクもあります。(実際、私の父は手数料が非常に高い商人を売りつけられていました。)
(4)優遇税制を利用する
投資による利益には20%の税金が控除されます。
この税金を控除してくれるのが、NISA制度です。
たとえば、投資の利益が5000万円が得られた場合、税金で1000万円が徴収されることにになりますが、NISA口座の利益は非課税となるため、5000万円の利益がそのまま懐に入ります。
来年度から、年間最大360万円までの投資金額について非課税としてもらえる新NISAがスタートします。一人あたり1800万円の非課税枠が付与され、夫婦では3600万円の元本までは非課税で運用できることになります。
これは、十分な枠であり、老後資金問題はNISAの運用により、ほぼ解決できると思われます。(使い切れない人の方が多いと思います。)
NISAの詳細については金融庁のHPをご参照ください。 → 新しいNISAのポイント(金融庁)
(5)頻繁な売買をしない
『安い時に買って、高い時に売る』ことを繰り返せば、より効率的に資産が増やせると思うでしょう。
しかし、実際に投資をやってみると多くの人がコレと真逆のことをやってしまうのです。
相場が上がってイケイケの状態の時に、上昇を取ろうと新規の購入をし、相場が下がり始めた時に、早めの損切として株を手放してしまう。
さらに、暴落時の株価が下がっている時には『まだ下がるかも』と、相場が反転した後も、『だまし上げでまた下がるかも』と、様子を見ているうちに買いそびれてしまうという経験は誰しもしたことがあるでしょう。
こういった、『相場を読む』という行為をやめて、予め自分の定めたルールに基づき、淡々と積立てBuy&Holdを継続することが、インデックス投資では最も効率が良いと実感しています。
一番簡単なのは、毎月定額積立を行うことです。『ドルコスト平均法』と呼ばれる方法ですが、円建ての投資商品で月5万円のように設定しておけば、為替とインデックスの両方の変動に追随する形で積立が可能です。
運用開始時の資産と投入期間を設定したら、後は淡々と積み立てていくことで良いでしょう。
投資について色々と学んだうえで、敢えて特別なことを何もせず、淡々と入金を重ねていく。これが最も効率が良いと思います。
コアサテライト戦略として、高配当株、個別グロース株やETFを触るというのは遊びの範囲で、長期的には投資効率を下げるということを理解したうえで、やるのが良いでしょう。(上手い人はうねりをとれるのでしょうけど、全員ができるわけではないです。)
長期分散投資をセッティングした後は、投資のことは忘れてしまって、家族との時間や本業に時間を使う、というのが、一番良いのかも
まとめ
本記事では長期投資(長期分散積立投資)のパフォーマンスを向上させるための重要事項5選について説明しました。
いずれも重要な項目ですが、この中で特に実践が難しく、差がつきやすいのが2.でしょう。
他の項目は知ってさえいれば、迅速な対応も可能ですが、2.については「日々の積み重ね」が求められるためです。こちらについては、別の記事を作成してみたいと思います。
さて、いかがだったでしょうか?
全ての項目を把握実践しているという方は、マネーリテラシーの基本となる部分は十分に理解されているので、既に資産形成が進んでいる方々ではないかと思います。
知らない項目があったという方も、今後、実践していけば大丈夫。
今から始めればいいんです。共に頑張りましょう。
ここ迄読んで頂き、ありがとうございました。
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